ラス・リラス便り

第 11 号

平成17710

アルゼンチン国コルドバ州ビジャマリア市

須郷 隆雄

 

 79日はアルゼンチンの独立記念日だ。今日から学校は2週間、冬休みに入る。私ものんびりした気分で、何時ものラス・リラスへ。満席だ。やはり何時もよりは混んでいる。店内を見渡すが、空いている席は無い。やむを得ず帰ろうとすると帰る客。素早く席を確保。何時ものコルタード。コーヒーカップの下に何時も皿が2枚ある。1枚で好いと思うが、理由が解らない。とにかく食器と紙と布はふんだんに使う国だ。

 子供には「太陽の下での遊びとママが大切」という記事がある。陽の下で遊ぶ子供、そばにママがいる。子供にとって最高の時間かもしれない。今このパターンが崩れかけている。アルゼンチンにおいても同様だ。親は共働き、子供はお婆ちゃん任せか保育所任せである。次代を担う子供の育て方に疑問を感じざるをえない。家庭崩壊はこの辺から既に始まっている。

     

  靴磨き道具                  ガウチョ

 靴磨きがやって来る。暫く見かけなかった。そろそろ靴を磨きたいなと思っていたところ、それを察知してか、私の脇に来る。台に靴を乗せる。会話は無い。10分か20分、丁寧に磨いている。その間、新聞を読み続ける。「いくら?」と聞くと「2ペソ」という。これで商売になるのかなと気の毒になる。チップをあげたくなったが、きっちり2ペソだけ渡す。よく街角で靴磨きを見かける。大抵老人だ。寒風の中でじっと客を待っている。日本ならガード下だが、ここにはガードが無い。日本では靴磨きは見かけなくなった。靴の材質が変わったためかもしれない。しかし、有楽町から新橋にかけてのガード下界隈には、みかん箱をひっくり返し、道路まではみ出して、もうもうとした焼き鳥の煙の中で1日の憂さを晴らすサラリーマンに混じって、今も細々と営業しているとのことだ。料金は500円だそうだ。決して高い値段ではない。宮城マリ子の「ガード下の靴磨き」が聞こえてくるようだ。「ねえ、おじさん。靴磨かせておくれよ!」

 新聞にコルドバ州知事デラソタが在任5年を祝って、家族と食事をしている写真が載っている。ブロチェッテというシシカバブーのような串焼きを頬張っているところだ。ブロチェッテというのは、肉の間に色々な野菜を入れた、私も大好きな料理だ。いわゆるアサード料理である。

    

  アサード                アサドール

 アルゼンチンを代表する料理といえば、やはり「アサード」である。ガウチョが野生の牛を捕らえて、その肉を焼いて食べたのが始まりだそうだ。野外で豪快に野性味たっぷりに焼いて食べていたのが、今ではレストランや家庭でも一般的に食べるようになった。何しろアルゼンチンには5千万頭の牛がいる。肉が中心になるのも当然だ。パリーシャといって、炭を燃料に網の上でじっくり焼くのがコツだ。焦ってはいけない。その時油が落ちて、あっさりした味になる。味付けは塩だけだ。こちらの人は毎日アサードを食べているのかと思いきや、せいぜい週に1回だそうだ。毎日食べたら若くして成人病、40過ぎたら脳溢血だ。しかしアサードは、パーティーにはもってこいの料理だ。アサドールという炉があれば、何人でもオーケーだ。料理はいたって簡単、ただ焼くだけ。こちらの味付けは、塩と酢とオリーブオイルがあれば全てオーケー。いたってシンプルだ。食材の味を引き出すのがコツだ。アサードはアルゼンチンにぴったりな料理とつくづく思う。アサードの料理法を語れば、アルゼンチンが分かるといっても過言ではない。

 客が待っている。目が合ってします。最早2時間も粘ったので潮時だ。席を譲る。このラス・リラスは何時も混んでいる。ウェイトレスが美人で感じが好いからだろう。味もさることながら、ウェイトレスの役割は大きいようだ。
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