ラス・リラス便り

第 10 号

平成17610

アルゼンチン国コルドバ州ビジャマリア市

須郷 隆雄

 

 駅に自転車を取りに行く。

 昨夜コルドバからの帰り、自転車を置いてあるのを忘れタクシーで帰ってしまった。これが失敗の始まり。自転車が無い。盗難だ。しかし鉄柵にチェーンで止めておいたのに、どのようにして持っていったのだろう。

 以前、旅行代理店の前に自転車を停めておいた時、子供が「これは自分のだ」と言い張る。警察も来て、「あなたの物であることを証明しろ」とのこと。代理店の女性と一緒に交渉しても埒が明かない。自転車は一時警察へ。購入先から証明書を発行してもらい、警察へ。最早夜8時だ。「子供がまだ証明書を持って来ないので10時に来い」とのこと。夜10時に、漸く引き取り完了。警察の対応には苛立ったが、その間ずうっと店を閉めて、ご一緒してくれた代理店の女性に心から感謝した。翌日、食事に誘い、感謝の意を表した。妹と2人で代理店を経営しているとのこと。以後、航空券、旅行の手配は全てこの代理店にお願いしている。

 この様なこともあったので、警察に届けても埒が明かないだろうと、後日、新たに中古の自転車を買ってしまった。

 憂鬱な気分で戻ると、ラス・リラスの前に人だかり。道路を封鎖して、子供達の平均台や床運動の発表会を行っている。上手とはいえないが、大道芸の素養を養うには好いかもしれない。このような光景は時々見かける。

 子供達の体操で、少し気分が落ち着いてきた。

 暫しラス・リラスへ。今日のウェイトレス、なかなかの美人さんだ。黒い星型のイアリングを付けている。つい見とれる。向かいに高校生、隣に40歳前後の2人連れ、今日は別嬪さんが多い。巨大なお尻には何時も悩まされる。知らず知らずに目がそこを追っている。

 美しいものを見るのは好いことだ。大分心も和んできた。

 犬がやってくる。頭を撫でると、何時ものように膝に足を乗せてくる。菓子を与える。暫く食べ、また尻尾を振っている。暫し寝そべっているが、やがて他のお客のところへ。

 ラ・ボス新聞を開く。今年のインフレ予測、ラバーニャ経済相は11%と言っている。アルゼンチン経済は今急速に回復している。2004年のGDPは1,570億ドル、9%の伸びだ。しかし、失業率16%、貧困率40%、しかも貧富の格差は拡大しつつある。経済成長を上回るインフレが、国民生活をさらに悪化させている。貧困格差は途上国の大きな課題だ。「BRICs」といわれるブラジル、ロシア、インド、中国においても然りである。IT産業の急成長で「世界のソフト開発基地」に躍り出て、経済大国への道をひた走るインドには、11ドル以下の貧困層が4億人いるという。この二重構造を如何に解決するかが、世界経済の「次の主役」になるための大きな課題であるといわれている。富の偏在、貧困の偏在こそ、地球規模で解消していくべき課題であると思う。日本はもっと貧困格差解消にメッセージを発すべきだ。そして世界のリーダーとして、その責務を果たすべき時だと思う。

 今、アルゼンチンの乳製品輸出は好調に推移している。ユーロの高騰により、オランダ、デンマーク等ヨーロッパの輸出競争力が相対的に低下したことから、アルゼンチンの輸出は4億ドルと倍増している。大豆農家から酪農への回帰も進み、生乳生産量も過去最高水準の1,000万トンまでに戻りつつある。設備投資も旺盛だ。

 美人ウェイトレス、私の右、左を通り、忙しく働いている。その都度、顔とお尻に視線が行く。中年オヤジだなと思う。

 珍しくビジャマリア・ゴルフクラブのことが載っている。ハンディー戦で、ハンディー17から24のクラスのオスカール・スィンがスコア87、ネット67で優勝とある。時々見かけるオッサンだ。

 帰りがけ、美人ウェイトレスに写真を撮らせてもらう。笑顔で応えてくれた。

 家に戻ると電気か切れる。ガスストーブも故障だ。ウェイトレスにうつつを抜かした罰が当たったのか。今日はろくなことが無い。三隣亡だ。

        

      大道での子供達の平均台         美人ウェイトレス

「さよなら名大関貴乃花」を見る。

 相撲には相撲道という道がある。肉親の感情はそこには存在しない。貴乃花一族の厳しい掟だ。また、品格力量が求められている。力量は当然として、品格といっているところに道としての価値がありそうだ。ヒーローが生まれるときには、名勝負がある。大鵬は貴乃花に敗れ引退を決意し、千代の富士はその子貴花田に敗れ引退を決意する。一時代が終わり、一時代が始まる。貴乃花の人気の秘密は相撲道に徹した、求道者であったということだろう。貴乃花に日本人の心を見ていたのだと思う。貴乃花引退の時の兄若乃花の言葉が印象的だ。「特に言うことは無いが、兄弟に戻れたということかな。」

若乃花は昭和252月生まれの団塊の世代だ。逝くには早すぎた。

 今、団塊の世代が話題になっている。堺屋太一の命名だ。昭和22年から24年の戦後ベビーブームに生まれた世代だ。1960年代の若者の反乱、ハイティーン、ヤングといわれたこの団塊の世代は、過去においてもそうであったように、将来においても数々の流行と需要を作り、過当競争と過剰施設を残しつつ年老いていくといわれている。

 団塊お荷物論がある。働かない60代、年金福祉の負担が増大し、世の中は活気を失い,将来への不安だけが蔓延するというものだ。しかしそうは思わない。定年が始まる2007年からは「黄金の10年」がやってくるというべきでしょう。平均寿命は伸び、年齢観は変わってきている。60歳を迎えても、勤勉の気風に染まった団塊の世代には、サンデー毎日は送れない。働き続けるでしょう。定年で会社から開放された団塊の世代の新しい働き方は、「好きな仕事をする」ということだ。今こそ終身雇用の束縛から解き放たれて、本当に好きな仕事に取り組むべきなのである。兼業農家があるように兼業労働型年金者になることだ。

 「団塊お荷物論」「暗い定年後」という偏見を捨て、「黄金の10年」を想像しよう。福祉国家という天使の囁きは、耳に心地よく口に苦い。鬼の叱咤が必要だ。

 団塊世代諸君! 「黄金の10年」が待っている。終身雇用の呪縛から開放され、本当の自分を見出し、好きなことをやろうではないか。
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