ビジャマリア情報[

2004.6.5

Villa Maria, Cordoba, Argentina

須郷 隆雄

今回はアルゼンチンの酪農乳業情勢について報告します。
 アルゼンチンはご承知のとおり、国土が広く、しかも山が少なくパンパといわれる平原に恵まれていることから、世界有数の農業国であります。

 アルゼンチンのGDPは約95000億円です。農業総生産額は約6000億円、GDP比6%といったところです。農業就業人口は100150万人で人口の3%相当です。農業経営体は42万戸、所有土地面積は17200haで耕作地は約その20%の3300haです。穀物等の耕種では大豆、とうもろこし、小麦が主流で、近年特に大豆の栽培が急増しています。肉牛乳牛等の畜種では肉牛飼養頭数が4700万頭、乳牛が300万頭でトータル5,000万頭の牛が飼われています。牛肉生産量は年間約260万トン、牛乳生産量は約1000万トンです。

 農産物の輸出額は総輸出額の
56%を占め、農産物が外貨獲得の大きな役割を果たしております。従って、貿易政策ではブラジルと並ぶケアンズグループの南米代表として、国内保護の撤廃、更なる市場開放を主張しております。951月にはブラジル、パラグアイ、ウルグアイと共に関税の廃止、共通貿易政策の確立を目的にメルコスル(南米南部共同市場)が発足したものの一方の雄ブラジルとの貿易摩擦が絶えず、正常に機能しているとはいえません。

 ちなみに牛肉の
6割をドイツに輸出しております。また国民1人当たりの牛肉消費量は約60キロ、日本の約6倍です。さすがアサードの国です。


            

         サンコル;カルロタ工場         牧場と搾乳所、飼料サイロ

 さて、アルゼンチンの酪農はといいますと、生産額はGDPの1.5%、農業総生産額の6%といったところです。酪農家戸数は15,000戸、11戸当たりの生産量は1,100リットルです。99年に1,000万トンを記録したものの、輸出の7割を占めていたブラジル向けが半減したことや通貨引き下げによる生活水準の低下から国内消費が低迷し、1人当たり年間消費量(牛乳換算)230リットルあったものが、今は180リットルまで落ち込んだことあるいはまた、酪農家から大豆農家等耕種への転換が進んだこともあり、現在は800万トンまで落ち込んでおります。

しかし、アルゼンチンの酪農家は日本とは雲泥の差が有ります。私の見たところは規模が大きいほうですが、乳牛
1,000頭、牧場1,000ha、牧場主は町に住み、必要に応じ牧場に来るといったところです。まさに牧場オーナーということです。酪農家の生活レベルは上と中の中間位とのことです。
アルゼンチンは日本のような牛舎は全く有りません。全て放牧です。あるのは搾乳所と飼料用サイロのみです。濃厚飼料は1頭当たり
18キロほど与えられております。ちなみに生産者乳価は18円ほどです。蛇足ですが、こちらでは雌牛をバカ、雄牛をトロと言います。日本人の感覚からすれば、何と失礼な名前と思いますが、こちらでは親しみを込めて呼ばれております。

 アルゼンチンの乳業は、乳製品が75%、飲用が17%です。乳製品のうち35%がチーズで、23%がヨーグルト、25%が粉乳といったところです。飲用牛乳の63%は75度の低温殺菌です。これは全てピロータイプで売られております。あとはLLです。アルゼンチンも日本と同様中小乳業が多く、900社ほどあります。サンコルやマステリョーネのように世界トップレベルの工場を持っているところもありますが、大半は個人経営の小さなチーズ工場です。サンコルとマステリョーネで国内の80%を供給しています。
チーズは頭打ちでヨーグルトやデザート類が伸びております。中小の抱えている問題は日本と同じで、
50年、60年と歴史はあるのですが、全てにおいて古く、時代遅れで、不衛生です。衛生という概念が欠けているようにも思えます。未だに薪のボイラーを使っているところもあります。しかし彼らは誇り高く、50年の歴史があり一度も問題を起こしたことは無いと威張っております。しかし、この中小がこれからの時代を生き残るためには、今までの意識の壁を乗り越えて、統合合併が必要と考えております。

 アルゼンチンは今大きく変わろうとしています。またその意欲もあります。
アルゼンチンの酪農乳業の発展のため、中小乳業の建て直しと輸出の促進、国内消費の拡大が急がれるところです。

 最後に、アルゼンチンは日本に比べ所得は低いですが肉野菜は概ね日本の10分の1、乳製品も5分の1程度です。住居費も概ね10分の1と見て好いでしょう。医療制度も整っております。決して生活は苦しいとは思いませんが、月収1万円以下の貧困層が6割を占めるというところにこの国の根本的問題があるように思います。


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