エクアドル便り65号

フォルクローレと人形劇

 

 最近よく新聞を読むようになった。全国紙の「コメルシオ」、それに地元紙の「プレンサ」と「ロス・アンデス」だ。プレンサは地元情報を得るため、ほとんど毎日読んでいる。11月4日のプレンサに「フリアン・レガラードの悲劇的なシエスタ」という題の人形劇が芸術文化センターで上演されるとの記事が載っていた。更に、「チンボラソ・フォルクローレ・アンソロジー」がESPOCH(チンボラソ工科大学)で開催されるとの記事も載っていた。早速行ってみることにした。日本なら今が芸術の秋というところだが、エクアドルには取り立てて秋という季節はない。乾季から雨季への変わり目ということで、とりあえず芸術の秋いうことにした。

  

                 芸術文化センター                    フォルクローレ・アンソロジー

 「フリアン・レガラードの悲劇的なシエスタ」は7時開演と新聞には書かれていた。しかし会場には外国人カップルが2人いるだけだ。場所を間違えたのかと思い、係員に聞くが間違ってはいない。「何時から始まる」と聞くと、「7時20分」と言う。いったい新聞に書かれていた7時は何だったのか。何時もながらのエクアドル時間だ。7時20分、徐々に家族連れが入ってくる。開演の気配はない。客も心得たものだ。会場も次第にうるさくなってきた。スイングジャズ風の音楽が流れている。7時40分、まだ始まらない。客入りは3分の1程度だ。観客が手を打って開演を催促する。どうも開演時間は、この主催者側と観客側の「あうんの呼吸」で決まるようだ。何時もこの開演時間で悩まされる。

 古時計修理職人のフリアン・レガラードは昼寝を禁じる規則に悩まされていた。仕事中に度々居眠りをしてしまう。フリアンは人体改造工場で、人体改造をすることを宣告される。人体改造に取り掛かる前に、操作担当者のクララとソランシの利害対立によってフリアンは辛くも救われる。この2人の奇妙なトラブルが全ての登場人物を巻き込み、思いがけない方向に事態は展開していく。

 人形フリアン・レガラードを操る2人の青年と、クララとソランシを演じる2人の女性だけの劇団だ。劇団の名はEl Teatro de los Silfos「空気の精」という。なかなか洒落た名だ。会話は比較的少ないイメージ劇。それを盛り上げる効果音が絶妙だった。設備も十分ではなく、着ているものもお尻に穴が開いてたりしていたが、この若者たちの演劇に対する情熱には拍手を送りたい。十分には内容を理解し得なかったが、久しぶりに劇らしいものを見た満足感は残った。

 翌日、ESPOCHの講堂でフォルクローレの夕べ、「チンボラソ・フォルクローレ・アンソロジー」が開かれた。ESPOCHは町の郊外にあり、夜も遅くなりそうなので行くかどうか思案していた。すると、会計主任のマギーが「今夜フォルクローレがあるんだけど、行かない」と誘ってくれた。渡りに船である。妹同伴で私のアパートに迎えに来てくれることになった。開演は7時半。7時に会場に入ると結構な客だ。人形劇とは大分違う。7時半には溢れんばかりの観客だ。通路に立つもの、階段に座るものもいる。結構立派な講堂だ。やはり学生が多い。観客が手を打って開演を促す。

 司会者がグループを紹介する。1番手はINTI YAYA(インティ・ジャジャ)だ。チャランゴ、ケーナ、サンポーニャ、ボンゴを奏でる4人組である。グループの活動やイメージ写真を映し出しながら演奏を盛り上げる。色々な種類のサンポーニャを使い分ける。音響効果も悪くない。何よりも耳を劈くようなボリュームでないのがいい。

 次はNANCA HUAZU(ニャンカ・ウアス)だ。ゲバラの写真が映し出されている。アルゼンチンの国旗の色セレステのポンチョで統一した10人グループである。さすがに凄い迫力だ。観客も手拍子、乗ってくる。CDで聞き覚えのある曲もあった。

 続いて、チンボラソ・フォルクローレ・アンソロジーのグループによる民族舞踊が披露された。

 4番手はTUNCA HUAN(トゥンカ・ウアン)だ。赤いマフラーを首から提げた7人グループである。ギターとフルートによるメロディアスな「パシージョ」だ。パシージョはエクアドルを代表するメスティーソ(混血)音楽でもある。エレキギターも使われている。ゲバラの苦悩する顔が映し出されている。パシージョ曲に合わせ、張りのあるバリトンで詩が朗読された。会場がシーンと静まり返る。アルゼンチンの友人アルフレドは、歌は歌わなかった。しかし曲に合わせ、詩を朗読するのは得意だった。アルフレドを思い出しながら聞いていた。「オトゥロ、オトゥロ」の声。アンコールが要求されていた。

 最後はINTI RAYMI(インティ・ライミ)だ。グリーンのベストで統一した7人組である。CDで聞き覚えのあるいい曲だ。2つのグループにINTI(インティ)という名が付いていた。インティはペルーの旧貨幣単位だが、インカの太陽神のことである。最早10時を回っている。終わりの時間は解らない。日本では条例で9時と定められている。マギーが「もう遅いから帰ろう」と言う。何となく名残惜しい気もしたが、帰ることにした。観客は帰る気配がない。

 家に帰ると停電で真っ暗。この街区は街灯すら点いていない。明かりは車のライトだけだ。手探りでドアを開けロウソクに火を点す。翌朝の新聞に、「水不足による節電のため停電」という記事が一面に載っていた。一方的な突然の停電に、住民の苦情が上がっていた。

 

成21年11月5日

須郷隆雄