ぶらりティンプー

平成19年3月13日 

 何時もはイージン・ゲスト・ハウスに泊まるところを、今回はドラゴン・ルーツ・ホテルに変えてみた。イージンは内装や設備は良いといわれているが、古くて決して清潔とはいえない。ベッドの硬いのにはまいる。このホテルに泊まる度に、腰痛になる。JICA関係者が良く利用するので、JICAゲストハウスとも言われている。そこで今回は1ランク上のドラゴンに変えた。このホテルは2004年にオープンした最新のホテルである。ブータンのホテルでは初めてエレベーターが採用されたことでも有名だ。しかし故障して以来、動いていない。


  

 チェックインすると「コーヒーにしますか。紅茶にしますか」と聞く。ボーイではないガールが2人、荷物を部屋に運んでくれる。ブータンではチップがない代わりに、荷物を運ぶという習慣も一般にはない。コーヒーが届く。しかし、しっかりと請求には入っていた。サービスという言葉は通用しない国である。

 先週に続くティンプーへの出張で、腰が痛い。1階にタイマッサージがあった。覗いてみると女の子が暇そうにしている。注文すると「ここは暖房がなく寒いので、部屋でします」と言う。部屋まで付いてくる。エッセンシャルオイルをぬたくり、マッサージをしているようではある。「腰が痛いんだ」と言うと23回腰を「トントン」と叩いただけ。結局、腰痛には何の効果もなかった。ぼったくりに合ったような気分だ。

 センターポイントで昼食をとる。ブータンには数少ない日本料理店だ。日本風料理店といったほうがいい。オーナーの義理の妹が日本人だそうだ。味噌汁とレバニラ炒めを注文してみた。それなりに日本の香りだ。レバーは乾燥した物を使っていると見えて、やけに硬い。翌日はカツカレーにした。カツが切り離してない。背の部分で繋がっている。何故なのかはわからない。フォークはないし、硬いので切り離すのに一苦労だ。辛いのが得意なブータンにしては、カレーが甘ったるい。しかし日本風ではある。なんとなく満足感を味わった。

 夜、ブータン・キッチンに行ってみた。2004年にオープンした本格的なブータン料理レストランである。着任時にJICA所長の招待を受けたところでもある。入ると大正琴のようなブータン楽器を「チンチロチン」と奏でている。客は誰もいない。1人、席に着くと「お連れの方は?」と聞く。「1人だ」と答えると怪訝な顔をしていた。メニューはない。コース料理だ。アラは飲み放題。コーン入り白米、赤米、それにビーフ、ポーク、ポテト、野菜煮、エマダツィにチリである。なかなか豊富だ。値段が気になったが、いまさら引き下がれない。ジーパン姿の黒人と白人の女性2人連れがやってくる。暫く何やら話していたが、食事が会わないと見えて、帰ってしまった。川沿いにテニスコートが見える。もしや所長がと思ったが、下手糞なので多分違うだろう。今度は白人男性客の2人連れだ。やはり旅行客のようだ。最後はコーヒー。まだ下手なテニスが続いている。不安な気持ちで会計に行く。何と250ニュルタム。超安である。下はカラオケ屋。覗いてみたが訳のわからない歌を歌っているので、止めておいた。最近この手の店とディスコが増えてきている。ハンバーガーの店も出来ている。秘境ブータンにも国際化の波が押し寄せているようだ。


  


 町でばったり、農村調査のときの学生に出会った。就職活動をしているとのこと。公務員以外にこれといった職のないブータンにとって、職探しは一大事のようだ。

 ライス・ボールで昼食をとる。三々五々、オフィス勤めがやってくる。1時半ごろ満席になった。レジ係り、愛想がない。ブスッとしている。顔立ちが悪いわけではない。ブスッとしているから「ブス」なのだ。

 ジャカールまでの帰り、ケイザン・ツェリンと同行した。ケイザンは、私が始めて会ったブータン人だ。宇都宮大学の学生食堂で偶然にもブータンという名札を付けていたのを見つけ、声をかけたのが最初の出会いであった。その時、ブータンへの派遣が決まっていたからだ。名前と住所・電話番号、メールアドレスを教えてくれた。JICAの派遣で5ヶ月間、農業機械の研修に来ているとのことであった。JICAつくばセンターに宿泊していた。一度、筑波まで彼を訪ねたことがある。Tシャツを着て、余り元気のなさそうな感じであった。ブータンに赴任後、その彼が一度、私のロッジを訪ねて来たことがある。口髭を生やし、パワフルで精悍そのものであった。日本での面影は全くない。古巣に帰るとこれほどまで違うのかと驚いた次第である。聞くと、農業省の技術部長だという。年齢はまだ40前後だ。次期農業局長との噂である。そういう目で見る性でもないが、風格が備わっているようにも感じる。偶然とはいえ、よき友を得たものである。

 道中、次第に春の息吹を感じる。石楠花の赤、桃の濃いピンク、沈丁花の淡い紫。道端のヨモギやタンポポも青みを増してきた。黄緑の柳をなでる風にも暖かさが感じられる。「初蝶やいのち溢れて落ちつかず」春一。春は既に足元まで来ていた。



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