激論ワークショップ
 
平成19年1月25日

 第2回全国畜産ワークショップが1月15日から18日までの4日間、サルパン県ゲレプで開催された。各県から畜産関係の職員5名ずつ100名、農業省関係40名が集まり、今年度の活動報告と次年度の活動計画の骨子を作るためのものだ。主催事務局は我々のRNR−RC(自然資源開発センター)である。

    

 初日、何処の田舎のおっさんなのか、声をかけられる。「日本に3ヶ月、研修に行っていたことがある。北海道の帯広というところだ」と。会議場に入ると何とその田舎のおっさん、議長席に座っているではないか。聞くと畜産局次長とのこと。人は見かけによらないものだ。タシ所長が開会の挨拶。コンサルタント3人を紹介する。1人はEUから派遣されたイギリス人、レイノルズ博士だ。もう1人はネパールから派遣されたスリャ博士である。そしてもう1人はなんと肩書きも資格もない、しがないJICAシニアボランティアの私であった。一通りのセレモニーが終わり、先ずは総括報告として獣医部門、続いて改良管理部門、飼料部門、この2部門は当センターのスタッフが報告した。続いて各県からの調査報告がなされた。1人20分、パワーポイントを使っての効率的な発表である。翌日は農業省関係のスタッフから技術研究報告があった。若手の激しい意見の応酬、それをうまく調整していく例のおっさん次長。4時の終了時間が8時にまで及ぶ。ヤングの新しい斬新な意見とオールドの経験に基づく重厚な意見が交錯する。

 3日目、5グループに別れ、問題点と対策、そして行動計画を討議する。私はマーケティング&マネージメントのグループに参加した。私も日本の状況、ブータンの問題点と今後のあるべき方向について発言する機会を得た。討議結果を各グループが発表し、全体の意見を問う。おっさん次長が必死の調整を図るが議論が白熱し終了はやはり8時になる。

  


 4日目最終日、ナマズのような顔のおっさんが議長席に座っている。水産関係の話でもするのかと思ったが、なんと畜産局長である。挨拶すると「RNR−RCモンガルの事務所落成式にお会いしている」とのことであった。全く記憶にない。いよいよ討論を踏まえての25項目に亘る活動決議文が提示される。我が事務所スタッフはこの決議文作成のため、ほとんど寝てないとのことであった。議論の末、最終責任者であるこのナマズ局長の巧みな調整により、この決議文が承認された。ナマズ局長のブータン農業にかける想い、畜産スタッフと農民への期待を込めた1時間にも及ぶ長い挨拶を持って終了した。終了後は例の如く、ささやかではあったがブータン伝統の踊りとなった。イギリス人もネパール人もそして私も踊りに興じながら、ブータンの活力と農業の発展を心から願った。
若者の新しい考えと熟年の経験がうまくバランスした価値ある4日間であった。

 ブータン農業は未だ自給的生産が中心である。山深い斜面を開墾し、棚田と段々畑それにわずかな牛を飼い生計を立てている。良く言えば循環型農業、しかもアクセスが悪く山道を1日がかりで町にでなければならない。なかなか商品経済が浸透しにくい地形でもある。しかし農村の生活向上のためには、農民のグループ化、組織化が重要な課題として提起されている。畜産品や果樹、園芸は生産物による協同化も可能であるが、それ以外はコミュニティーとしての協同化が必要な気がする。

 ブータン農業が産業として自立する為には、自給生産から商品生産へ転換する必要がある。その為にも特産化、協同化は避けて通れない。しかし地形的、風土的大きな制約もある。だが、この特異な風土を活用する方法もある。「ないものねだりではなく、あるもの探し」が重要なポイントだ。インド国境の亜熱帯からヒマラヤに至る多様な植生を擁している。しかも稲作文化と牧畜文化の融合点であり食に対する柔軟性もある。アクセスの悪さは地産地消で、循環型はオーガニックで勝負すればいい。安全安心、品質、鮮度など戦える分野はまだある。多様な風土、宗教観(殺生観)を生かした特産化も進める必要がある。

 今インドとは自由貿易協定が結ばれている。安いインド製品がブータンに流れ込み、ブータン産業の自立を阻害している。しかしそれは豊かさをもたらしてもいる。ブータン経済の80%以上はインドと係っている。インドなしにブータンは生きられない。協調が必要であり、お互いに補完しあえる生産物は多々あるはずだ。

 ブータンは今、世界に例のないGNH(国民総幸福)を政策に掲げている。開発を優先するのではなく、伝統文化と自然環境との調和の取れた発展を目指している。農村社会が崩壊しない国民全てが幸福感を得られる国家を築いて欲しいものだ。
ブータンはまだ若い。国を造る気概がみなぎっている。世界にはない唯一の国家、オンリーワンを目指して欲しい。エールを送りたい。




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