勝利のダツェ大会
 
平成18年11月27日

 ダツェとはブータン式弓のことである。国技でもあるこのダツェは、大人から子供まで多くの国民に愛好されている。弓は古来ブータン男性のたしなみであり、ほとんどの村に射場がある。試合は6〜10人を2組に分け、150mほど離れたお互いの陣地に置かれた的を射るものである。矢は2回射ることが出来、的の中央に当たれば3点、円形の中央以外は2点、的を外れても近ければ1点が与えられ、9〜25点先取した組が勝つ。的に矢が当たるたびに勝利の歌と踊りをひとしきり披露する。射手は名誉の印として、赤青黄緑それぞれの絹のスカーフを帯に挟む。1試合に数日を費やすこともある。

 今日はダツェのファイナル・マッチである。ジャカールの各チームが参加し、勝ち残ったチームの決勝戦だ。両チーム11人ずつ、1ゲーム21点先取し、3ゲーム中2ゲーム勝ったチームが優勝である。8時半試合開始。伯仲の試合である。しかし吹きっ晒しのグランドだ。じっとしていても寒い。20対17、後1点のところで昼食。車座になって震えながらの食事。再開、我が事務所チーム、的に命中である。1ゲーム先取だ。ひとしきり歌と踊りで勝利を祝う。先取の立役者に黄色のたすきがかけられる。引き続き2ゲーム目。順調に点を取り続ける。敵は戦意をなくしたようだ。陽も傾き、風も強まる。最早応援団は車の中。寒さに耐え切れない。外人観光客が興味深げに眺めている。勝敗が決まったと見えて、副知事がやってくる。4時に漸く試合終了。陽が山に隠れる。ここには夕焼けはない。夕焼けになる前に山に陽が落ちてしまうのだ。寒さが一段と厳しくなる。2ゲームで決まらなければ、翌日に持ち越すところであった。目出度し、我がチーム堂々の3度目の優勝である。またもや勝利の雄叫びである。歌と踊りで勝利を祝う。

  


 表彰式。副知事より選手全員に聖水急須が授与される。勝者は銀製、敗者は銅製である。やはり敬虔な仏教国だ。準優勝チームにカップ。優勝チームに楯。与えるものが逆のような気もするが、それでいいのだ。盾には豪華な仏教的彫り物が施されている。

 いよいよパレードだ。優勝盾と白黄赤緑青の旗を掲げ町中を行進する。声援を送るものは誰もいない。自分たちだけで楽しんでいる。メイン・ストリートで勝利の踊り、祈り、そしてビールかけである。通行人が何を騒いでいるんだろうという顔で見ている。商店やホテルに押し入り、勝利の踊りだ。日頃の恩義もあり、何がしかの祝儀を包む。迷惑な話だ。しかしこれもカスタムだそうだ。一通りまわると奇声を上げながら事務所の寄宿舎へ戻る。打ち上げの準備は万端である。うず高く積まれた薪に火が入る。いよいよ最高潮かと思いきや、意外と冷静である。静かに酒を飲み、「ダンシング」と促されて踊る始末。この辺がラテンとはちょと違う。かがり火の熱に当てられ、またもや悪酔い加減。日本語ドルジに送られてロッジに戻る。「マイ・チーム、ウィンナー、チャンピョン、NO1」と大声でドアを叩く。迷惑なのはロッジの家族だけ、近所には家はない。三日月が鋭利な刃物のように冴え渡っていた。





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